建築士と考える「土地活用」

継承から考える「建築品質」

継承資産としての「建築」

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先日ふとテスラのショールームに行き、モデルYを見てきました。その時は、結構いいなと思ったわけです。(たしか700万円くらいだったと思います)

その後しばらくして、テスラの全車種値下げがニュースで流れました。

普通に考えれば、価格が下がれば購買意欲が上がるはずですが、実際は逆のことを思ったわけです。

まず思ったのが、「いきなり100万円を値下げする車は、買い替えの時にまともな下取り価格がつくの?」です。

その次に思ったのは、「そんなに値下げするなんて、よほど売れないのかな」でした。

結果、値下げによって私の購買意欲は下がってしまいました。

自分でも意外だったのですが、これは私がテスラ車を資産であり、ブランドだと認識していたゆえのことです。(特に意識していなかったのですが)なので、軽自動車の値下げではこうは感じません。単に買いやすくなったなと思うだけです。これが資産と消費財の違いと思います。

これから家を建てようというときに“できるだけ安いものがよい”と考えるか、“できるだけ高いものがよい”と考えるか。

もし、前者であれば、設計事務所はあまり役には立たてないでしょう。コスト効率を追求すれば正解は一つとなるので、アイデアをいれこむ余地がほぼないからです。

逆に、後者であれば、アイデアを通して価格を設定し、説得力を創らなければなりません。例えば、車のブランドでいえば、ベンツとポルシェを自動四輪車という視点から同一と認識する人はおそらくいないでしょう。高いものを作るならば、バリエーションは無限に作れるし、価格も自由に設定できるわけです。

無限のバリエーションから、予算の範囲内でどうやって違うと認識されるものを創るかが、設計事務所の価値となるわけです。

住宅を買うときに悩む点はいくつかありますが、その中でも大きなものが戸建てにするかマンションにするかです。ライフスタイルによって、どちらにするかを決めるべきなどと、一般的には言われますが、設計事務所としてこの問題を考えてみます。

まず言えるのは、住宅の購入はほぼほぼ人生において最大の支出なので、個人の好みで決めるべきではないということです。今も昔も「ライフスタイル」という言葉は、ポジティブに使われますが、そもそもが収入と職業でライフスタイルの大部分は決まってしまうわけですから、それをふまえて住宅の購入を考えるべきです。そして現代社会においては、将来の見通しをたてることが最も難しいのですから、住宅の購入では厳しくコストパフォーマンスをみるべきと言えるでしょう。その場合、重要なのは、最初にいくらで買うかよりも、今後10年・20年でいくらかかるのかの方です(ストックとフローの話ですね)。これについて、マンションであれば毎月の管理費・積立金が示されているのでわかりやすいです。

一方、戸建てでは毎月の管理費・積立金はありません。ですが、経年劣化にともなう修繕はマンション・戸建てとも必要になるので、戸建てでは、管理費・積立金相応の金額を自分で用意しておく必要があるわけです。要はマンションでは管理組合がやっていることを自分だけでやらなければならないということです、、、とても大変ですね。大変なので、皆さん深く考えないわけで、いざ修繕となると、大騒ぎとなるわけです。

というような相談をお客様から受ける身なので、私はマンション派なわけです。ただ、建築業界は戸建て派が実に多いので、こういう主張をするのはなかなか勇気がいることだったりします。

結局のところ、選ぶ基準となるのは、自分たちで建物管理にどれだけ手を掛ける気があるのかになると思います。

管理組合という制度もあまり評判はよくありませんが、そもそも建物管理は大変な作業なので、負担を分散させているだけまだマシといえると思います。昨今の社会の中で手間と時間をかけてでも、自分自身でよい管理計画をたてたいと考える人は少ないと思うので、マンションの方が現実的なのでしょう。逆に言えば、建物管理を自分でできるのであれば、戸建ての方が、自由度も高く、コスト管理も柔軟に行えるわけです。このあたりは賃貸アパートを計画する際も同様ですね。

こういった考え方・管理負担の整理区分なども、昨今では設計計画の重要な要素となっているわけです。

わたしたちは日頃から何気なく”いい”というフレーズを使います。

いい歌だなとか、いい車だねとか言うわけですが、この”いい”というのがどういうことか、

答えるのは以外に難しいものです。

こと作り手からすれば、お客さまの要望は人それぞれなので、何をもって“いい”とするのかは、お客さま次第なのです。ただ、だからこそ作り手は何が”いい”かをはっきりさせておかないと、一貫した仕事ができなくなります。「お客さまの要望にあわせているので、毎回全く違うものが出来上がります」では、依頼するお客さまは困惑してしまいます。

では、われわれが考えるいい建築とは何か。

それは、相続人・承継人に喜ばれる建築です。

継承がしやすい資産と言いかえてもいいかもしれません。

ただ、これには根源的な問題があります。

それは、建築は誰のために作るべきかということです。

お客さまは通常、今と直近の未来のために建築を計画しますが、建築を使う時間は、30年以上はあるので、確実にお客さまの想像できる時間よりも長くなるのです。この場合、建築の評価は新築時点でするべきか、30年経過時点でするべきか、どちらにすべきでしょうか。

われわれの考えは明確に後者、30年経過時点で評価すべきとなります。

30年が経過すれば、オーナーの年齢も30上がっているので、相続について考えなければなりませんし、その中で売却するか改修して使用し続けるかの検討も必要になります。

そういった状況をあらかじめ想定し、困らないように設計に織り込んでおくこと、

これがわれわれの考える設計計画です。

したがって、前段の問い「建築は誰のために作るべきか」に対する答えは、

「未来の自分または承継人のため」となるわけです。

いい建築とはなにか、それは未来の自分が困らないように配慮されている建築ではないでしょうか。

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